大阪高等裁判所 昭和40年(ネ)675号 判決 1966年1月24日
控訴人 西藤次郎
被控訴人 合資会社米栄
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴会社代理人は主文同旨の判決を求めた。
当事者双方の事実上の陳述は、次に記載するほか原判決事実摘示のとおりであるから、ここに、これを引用する。
控訴代理人の陳述。
被控訴会社主張事実中、訴外株式会社高西組がその主張約束手形三通を振り出したことは認めるが、控訴人が右訴外会社と共同してこれを振り出したこと、および被控訴会社が右各約束手形を支払期日に控訴人に対し支払いのため呈示したことは否認する。
右各約束手形になされた控訴人の署名は保証の趣旨である。
被控訴会社代理人の陳述。
右各約束手形は右訴外会社と控訴人とが共同して振り出したもので、控訴人は単なる手形保証人ではない。すなわち、ほんらい約束手形の振出人のために保証をなした者は主たる債務者たる振出人の負担する手形上の債務につき従たる関係に立つのであるから、約束手形の表面になされた単純な署名捺印が手形保証の趣旨であると認められるためには、かかる従たる関係の存在をうかがい知るに足りるような形式で右署名捺印がなされていることを必要とすると解すべきである。これを本件についてみるに、右各約束手形表面には、いずれも支払約束文言および振出年月日欄と名宛人欄との間の通常振出人の署名のなされる個所に、右訴外会社の本店所在地ならびにその商号の記載および取締役社長西藤次郎の記名捺印がなされ、かつ、これとならんで控訴人の住所の記載およびその署名捺印がなされているのであつて、右訴外会社の記名捺印と控訴人の署名捺印との間には別段主従の関係は認められないのであるから、右各約束手形は右訴外会社と控訴人の共同振出にかかるものというべきである。
証拠<省略>
理由
訴外株式会社高西組が、被控訴会社にあてて原判決別紙番号1.記載の約束手形一通を、また、訴外片岡正にあてて同じく2.3.記載の約束手形二通を各振り出したことは当事者間に争いがないところ、右訴外片岡が右2.3.の約束手形二通を被控訴会社に裏書譲渡し、被控訴会社が現に右約束手形三通の所持人であることは控訴人の明かに争わないところであるから、これを自白したものとみなされる。
しかして、控訴人の署名捺印のある約束手形であることに争いのない検甲第一ないし三号証によると、右各約束手形になされた控訴人の署名捺印は、各振出人欄に、筆頭署名者であり、かつ、前記振出人である前記訴外会社の記名捺印と列記されていることを認めることができる。
ところで、被控訴会社は、控訴人は右各約束手形の共同振出人である旨主張するのに対し、控訴人は、控訴人の右署名捺印は保証の趣旨である旨争うので、考えてみるに、およそ、約束手形の共同振出の制度が認められる以上、その振出人欄になされた数個の署名ないしは記名捺印は、特段の事情の存しない限り共同振出の趣旨と解するのが相当であるから(この場合、筆頭署名者のみ振出人で、他は保証人であると解する見解もあるが、にわかに賛同できない)、控訴人の右署名捺印は共同振出の意味でなされたものといわなければならない。そうすると、控訴人は右約束手形の所持人たる被控訴会社に対し、共同振出人としての責任を負うものというべきである。
したがつて、控訴人は被控訴会社に対し、右各約束手形金合計三〇〇万円およびこれに対する訴状送達の翌日であることが記録上明白な昭和四〇年三月一六日から支払済みに至るまで商法所定の年六分の割合による遅延損害金の支払義務あるものというべきである。
そうすると、控訴人に対し右金員の支払いを求める被控訴会社の本訴請求は正当として認容すべきであるから、これと同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がない。
よつて、民訴法三八四条、八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 金田宇佐夫 日高敏夫 中島一郎)